· 

ナッジの手法

(このブログは、東洋経済新報社刊「LIFE SHIFT2」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、7月20日です。)

 窮地に陥らずに、好ましい判断をうながす環境について話を進めよう。

 行動経済学で言う「ナッジ」の手法を活用するのも社会生活を送る上では有効だ。望ましい行動を取れるよう人を後押しするアプローチのことだ。誰かに「このようにしなさい」と指示を押し付けたり、時には罰則を設けたりするのではなく、取り組んでほしい行動を自然にしたくなるようなアプローチを工夫することだ。

 具体的な事例の方がわかりやすい。大腸がん発見のためには毎年のリピート受診が必要なのだが、八王子市では、前年度の受信者に採便容器を送付していた。だが、送付を受けた人のうち受診したのは約7割にとどまっていたという。予算を無駄にするのを減らすため、市では、ナッジの理論を使って受診率を上げる取組みを計った。Aグループには、「検診を受けてもらえば、来年も検査キットを送ります」というお得さを感じられるメッセージを送った。Bグループには、「受信しないと来年からは検査キットは送付されなくなります」とサービスを失う可能性を伝えた。すると、損失回避に働きかけたBグループの受診率は、Aよりも7.2%高くなったそうだ。「来年ももらえるならまあいいか」ではなく、「この権利を失いたくない」との意識が強く働いたのだろう。

 この例のように、同じねらいを持った呼びかけでも、対象者が「自分にとって大事なこと」と認識したりとか、「やらなければ」と思える働きかけをすることで、行動を起こさせるアプローチを「ナッジの手法」という。他人に対しても自分に対してもこのように「やりたくなる」ような背中の押し方を大事にしたいものだ。

 ただ、社会生活では、理性に働きかけそれぞれの対象者の選択の自由にまかせることを考える「ナッジの手法」は効果があると思うが、一番身近な家族は難しい。上のAとBのような与え方をすると、Bの言い方では関係にヒビが入りそうだ。子どもが親のためを思って言ったつもりでも、「お前はそうやって俺を言いなりにする気なのか」と言われそうだ。親の象が子どもの象を鼻でそっと押してあげるような姿をナッジの手法ではイメージしているが、人間の家庭では、「どうしてこんなこともできないのか」と責め合う場面も多いのだ。

 どうしたら好ましい判断をうながすような声がけを家族でもできるのだろうか?こどもの判断に任せて親は口を出さないのも問題。あれこれ親が先回りしてやってしまうもの問題。やはりほどほどの冗長性が必要なのだろう。これについてはまた扱おう。