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健全な心と真の幸福

(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

 前回書いたように、「雨の降らない人生はない」のだ。人は誰しも失望や悲しみに出会う。それから逃げるのではなく、感情を広い幅で経験し、たくさんのポジティブな経験を生み出すことで中和していく。そういった経験から、自分の人生の進む道は自分の選択のもとにあり、コントロールできることを信じていくのだ。

 脳科学の研究が進む中で、「マインドフルネス」(今ある自分に集中できること)が大切であることがわかってきた。そしてそれは、古来の黙想の伝統(坐禅など)と結びつくことがわかってきた。

 禅の言葉で、「莫妄想(まくもうぞう」と「主人公」の二つを職員に紹介したことがある。

 まず「莫妄想」とは、「妄想すること莫れ(なかれ)」と言う意味で、「不安や心配、疑念などで心を惑わせ、正しい方向を見失うなよ」ということだ。「マインドフルネス」は、直訳すれば「心がいっぱい」で、違うことで心を惑わすな、今やっていること、今ある自分で心を満たしなさいということだから、同じことなのだ。

 そういえば、ほぼ毎日仏壇に向かって般若心経を唱えているが、「あっ、そうだ今日は…」などと途中で別なことを考えると間違えてしまう。完全に覚えていたはずなのに、どこまで唱えたか迷子になってしまう。

 もう一つの「主人公」は、普通に使う言葉だが、禅では「本来の自分」という意味で、それを見失うなという思いが込められている。瑞巌和尚は、毎日自分自身に向かって「主人公」と呼びかけ、また自分で「ハイ」と返事をしていたそうだ。「はっきりと目を醒ましているか」「はい」「これから先も人に騙されなさんなや」「はい、はい」といって、毎日ひとり言を言っておられたという。人は、とかく本当の自分というものを見失いがちで、外のものに目を奪われている間に、自分を喪失してしまいやすいのだ。

 「健全な心の持ち主が真に幸福になれる社会を創造する道に向かいはじめたのだ」という言葉で著者はこの本を締めくくっている。