(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)
幸福になる三つの要素の3番目「大きな目標に没頭したり、意義ある目標へ努力する」について考えている。その「没頭したゾーンに入る」例として、前回は私の高校時代の鮮明に覚えているワンシーンを紹介した。あの不思議なスローモーションのような映像の鮮明さはまさに「最適経験」の具体例なのだと思う。
3日前(6月4日)は、長野県合唱祭が上田サントミューゼで開催された。私も朝から参加し、27のステージすべてを聞かせてもらった。さすが各地区を代表する団体が集まるだけあって、それぞれ個性的で自分たちの願うものをしっかり提案している演奏が多かった。響きの良いホールで、少人数でも合唱の響きの豊かさが会場全体に広がり羨ましくなった。
やはり「すごいなあ」と聴きほれる演奏は、団員のまとまりと集中力がいい。若い合唱団の夢中で曲にはまり込む演奏も良いし、経験豊かな女声合唱の隙のない演奏も素晴らしかった。それらは、ブログで紹介している「完全に没頭した“ゾーン”に入る」ことだと思う。仲間と目指すものを共有し、その意義ある活動に自分を没入しているのだ。
その状態〈フロー〉を体験する鍵は、自分の技量のレベルと挑戦の度合いとの間で絶妙なバランスを見つけることだという。指導者は、団員の技量を見極め、目指すものを共感できるように導き、それを達成できる具体的な方法を伝えるのだ。単に、「もっとこうできないのか」と圧力をかけたり、しつこく同じところを何度も歌わせたりするだけでは没入できない。歌の魅力よりも、先生の顔ばかり見たり、早く練習時間が終わらないかなと考えてしまったりではダメだ。
特別企画で、希望する参加者による300人近い合同の混声合唱に私も参加した。歌った歌は「言葉は」(谷川俊太郎作詞、信長貴富作曲)といい、長野県合唱連盟による委嘱作品だ。ちょうど2週間後の長野高校合唱班定期演奏会で歌うのでありがたかった。
谷川俊太郎の「シャガールと木の葉」から選んだ大好きな詩だ。
「言葉は種子 いにしえからの大地に眠る 言葉は新芽 赤ん坊の唇に生まれる」から始まり、「言葉は果実 苦しみの夜に実り 喜びの日々に熟して 限りなく深まる意味で 味わいつくせぬ微妙な味で 人々の心をむすぶ」とまとめる詩だ。こうしてブログを書きながら「私の並べる言葉は誰かの人生に少しでも染み込んでくれたらいいな」と思う。そんな人生の意義を見いだすことも大事だ。
そして、今向かっている研究室の机の前の壁にシャガールの絵が掛けてある。いろいろな想像を働かさせてくれる絵だ。特に、後ろから女性を大切そうに抱く優しさが、人生の究極の目標のように見えるのが好きだ。本当の幸福は、シャガールのような素敵な色合いに包まれてあたたかく寄り添う人の心にあると思う。