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恐怖に対応する脳の可塑性

(このブログは、文芸春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

 感情調節力は個人差があり、そのレベルの高い人は幸福度などが高いというが、その感情調節力の差はどのようにして生まれるのだろう。

 医学の進歩で、脳のどの領域が今活動し、各領域がどうつながっているか観察できるようになってきている。脳スキャナーの中に横になった被験者にさまざまな表情の顔写真を見せて、脳の活動する領域や程度、その連携を調べた。結果、恐怖の表情を見ている時に脳全体の活動度が増すが、それ以外の表情ではあまり変化がなかったそうだ。

 さらにその恐怖の表情を見た時に活動度を増す脳の領域のつながりを観察すると、「鉤状束(こうじょうそく)」という神経繊維の太い束にいきついた。それは、恐怖の回路を発動させる扁桃体とそれを抑制する前頭前野をつなぐ神経の束なのだ。そして、被験者の不安度の高さと脳の太さは反比例するということがわかった。鉤状束の太い人は不安度が低く、細い人は不安度が高かったのだ。つまり、その神経の束が太い人は、扁桃体の警戒情報を前頭前野がコントロールし不安を静める能力が高いということだ。

 それは生まれつきという可能性もあるが、これまでの研究の成果からは、それは薄いと本では説明している。不安などに長年かけて対応した経験や学習が、感情と抑制の中枢を結ぶ回路を強めたのだろうというのだ。スポーツで体を鍛え筋肉を強くするのと同じように、訓練をすれば脳の各領域を結ぶ経路を強くすることができるという脳の柔軟な可塑性だ。

 しかし、退職し自分の選んだ過ごし方を優先できる今は、できれば不安や恐怖を味わって脳のトレーニングする気にはならない。ドラマを見ても、昔のようにハラハラする刑事ものを見ることはほとんどない。心の温まる愛の物語が多くなった。できれば面白さがあってほっこりするのが一番ありがたい。まあ、教育相談で他の人の悩み事に向き合うのは仕事だから頑張るが、合唱など社会教育活動はあまり欲張らず楽しくやりたいものだ。