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感情調節力

(このブログは、文芸春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

 日々生きる上で、自分が状況をコントロールできるという思いが、例え半分以上妄想であっても、幸福感を膨らませ、寿命にまで影響を及ぼすことについて触れた。宝クジに当たったとき、サニーブレインの人は、「自分があの時、あれをしたことが良かったんだ」などと、自身の取り組みの成果として考え喜びをふくらませるのだ。

 その感情をコントロールする能力に個人差はあるのだろうか。次の実験が教えてくれる。

 被験者に不快で強烈な音を聞かせる。音が聞こえるたび、被験者はビクッとする。ただ、彼らは恐怖の表情をできるだけ表に出さないように指示されている。実験の結果、反応を隠すのが明らかにうまい人がいるのがわかった。研究チームは、彼らを「感情調節者」と呼んだ。さらに研究を進める中で、その感情調節力が、実生活の中で感じる幸福度の差にも現れていることがわかった。感情をうまく調節できる人は、一番大きな幸福を感じていたのだ。

 続いて二つ目の実験は、ひどい火傷をした人や腕を切断した人の治療など、生々しい場面を映した映像を見せた。ただ、上の実験とは逆に自分の感情をできるだけ増幅し、積極的に表に出すように指示した。その結果、感情の発現が豊かな人の方が、やはり幸福感や安心感が高かったのだ。

 それだけではなく、感情のコントロールが上手な人は、不得手な人に比べ、全体として高い収入を得ていたのだ。ビリヤードで世界王者になった人の言葉を紹介している。「成功の秘訣は、とんでもないことが起きても、それがなんでもないことのようにプレイできることだ」と。

 教員の世界も同じだと思う。子どもの発言を聞いて、想定していた内容だと「おお、いいところに気づいたね」と言う教師が多い。子どもはそんなつもりで言ったことではないのに、教師の考えた内容に変形させてまとめることもたまにある。発言した子がやや面食らった表情をして座るのを何度も見たことがある。逆に、想定した答えでないと「他に」と冷たく展開するのも当たり前にある。子どもたちのコントロールする場を奪い、判断の権限を独り占めしているのだ。

 教師が自己都合優先の感情をコントロールし、子どもたちが安心して自分の考えを出し合い、問いあい、深め、自分たちで良い答えを見つけ出していく喜びを味わってほしい。そういう教室から積極的に生きようとする「サニーブレイン」の子どもたちが育っていくのだ。