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選択する自由度と寿命

(このブログは、文芸春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

 「学習性無力感」についてシニア世代に関心のある事例が紹介されている。1970年代というから、半世紀も前の実験だが、アメリカの介護施設で行われたものだ。

 ある介護施設の2階と4階の住民が対象となった。どちらも、植物の鉢を一つと、週に一度映画を見に行くチャンスを与えられた。できるだけ二つの階の状況は同じに用意された。ただ、4階の住民は自分の好きな植物を選び、自分の好きな時間に水やりができること。さらに、映画を何曜日に見に行くかも自由に選ぶことができた。それに対し2階の住民は、決められた植物を与えられ、水やりはスタッフが行った。映画を見に行く曜日もスタッフが決定し住民に伝えられた。

 1年半後に研究者が施設を訪れると結果は驚くべきものだった。4階の住民が2階の住民に比べて幸福度や健康度が高いのは予想されたことだが、さらに死亡率の差も明らかになった。2階の住民の死亡者数は、4階の住民の2倍にのぼったという。状況をコントロールする自由を手にしていた人々はそうでない人々に比べ、長生きをしていたのだ。

 そういえば、母がデイサービスに週2回ほどお世話になっていたとき、感想を聞いたら、「途中で帰ってきたい」と言っていた。行けば人と交流し体を動かしたりできるが、1時間もやれば十分らしい。簡単な体操やリズム遊びなど決められたことを言われた通りにやっているのは楽しくないようだった。状況を自分でコントロールすることができる工夫はないのだろうか。以前認知症を扱った番組で、「できない人」と決めつけるよりも「その人なりにできること」で社会に役立つような体験をすることで進行を遅らせることができると言っていた。親切に介護することは、その人の選択肢を狭めるのではなく拡げることだと思う。