(このブログは、文芸春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いていいます。スタートしたのは、昨年の12月12日です。)
この本の最終章(第6章)もいよいよまとめの段階に入ってきた。「マインドフルネス」「ラベルづけ」について扱ったが、実験でそういった方法の習得に努めた結果を調べると、不安などの感情を統御する脳の部分に変化が起きることがわかってきた。感情のコントロールを助けるいくつかの重要な脳領域が高密度になっていることがわかったのだ。
言い換えれば、「自分の人生は自分が握っている」という感覚を持っていることが重要なのだ。それをわかりやすくするために、今日はその逆の状況である「学習性無力感」について触れておこう。
実験対象の犬のペアに肉体に害のない程度の電気ショックを与える。片方の犬は鼻でレバーを押すと電気ショックを止めることができるが、もう片方の犬は同じようにレバーを押しても電気を止められないという学習をさせられる。同じ回数学習を繰り返し、次に、実験用の小屋に入れられる。そこは、低い敷居で仕切られているが、片方の床からは電気ショックを与えられるのだ。敷居を飛び越えて反対の方へ飛び移れば電気ショックを避けることができる。
二匹の犬の反応は異なっていた。鼻で止めることができることを経験した犬たちはためらわずに敷居を飛び越えて隣の床へ移った。ところが鼻で止めることができなかった犬たちは、電気ショックから逃げようとする試みすらしなかったのだ。実験した犬の大半(3分の2程度)は、苦痛を逃れる道があるのに、ただその場にうずくまり痛みに耐えていたのだという。
逃れるすべを知った犬たちは、ストレスが起きたときにそれを撥ね返す心(心理的免疫)を持っていたが、レバーを押しても逃れられないことを知った犬たちは「どうせダメ」とストレスを受け入れる諦めの感情を持ってしまったのだ。これが「学習性無力感」と呼ばれる症状なのだ。(続く)