(このブログは、文芸春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートしたのは、昨年の12月12日です。)
感情を制御する「ラベルづけ」について続けよう。
最近のことだが、ある人から「マスクなんか何の役にも立たないのに何でみんなつけているんだ。今日もつけていないのは俺一人だ」と言われた。たまたまトイレで行きあった二人だけの場で、しかも私はマスクをつけていた。一瞬、自分が責められているように思い不安を感じた。ただ、その人が出て行って自分が用を足しながら「何であんな強い調子で言ったのだろう。」とか、「確かにもうじきコロナ禍も5類移行でそろそろ外す段階になるな」などと考えているうちに落ち着いてきた。さらにその人が2年ほど前かと思うが、同じようにトイレで行き合った時、飲んでいる缶ビールの話になって、私が節約のために発泡酒を飲んでいると言ったら、「あれは毒だから本当のビールしか飲んではいけない」と言われたことを思い出した。その時は、「へえ、そうなのかな」ぐらいに聞いただけだったが、二つのことをつなげると、あの人は、自分の思ったことを「どうしても譲れない真実」として心に留めないとダメなんだろうなあと考えた。他の人、例えば家族とかにもあの調子で言っているのだろうかとか考えてしまった。さらに、また同じようなことがあったら落ち着いて対応しようとも思った。
このように、「注目」したことを「再評価」することが自分の感情をコントロールする「ラベルづけ」なのだ。感情的な不安・恐怖などに「注目」して扁桃体が活性化しているときに、そのことの意味を考える「再評価」することで前頭前野が活性化し、扁桃体の活動は弱まるのだ。
本では、ある医学生の学んでいた時のことが紹介されている。手術の現場に立ち会わなくてはならない時、精神的にどう対処したか教えてくれたという。患者の内臓が見えるたび、彼女は、その名称を一つ一つ心の中で挙げ、解剖学的な面に意識を集中させて、恐怖や嫌悪を抑え込んだのだ。これは、ネガティブな感情をコントロールする上でとても正しいものなのだ。さらに、「この手術が終われば、この患者はもう痛みを感じなくなるし、元気に過ごせるようになる」と自分に語りかけるように意識をポジティブな方向へ転換させたという。
教員生活をしていた時、特に学校の管理職をしていた時は、保護者や地域の人から厳しい言葉をいただくことはよくあった。その時、逃げ出す気持ちになるのでは、ますます心が閉ざされネガティブになってしまう。「自分は、今までこういうこととしっかり向き合ってきた。」「これを解決するのが他の人より上手いから今の立場になれたんだ」などと、自分を励ましたり、「これが起きた原因は何だろうか」、「法律的には何が関係してくるだろう」などと考えることで冷静になった。その頃は知らなかった「注目」と「再評価」をして、心の中で感情をコントロールしていたのだ。