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偏った認知傾向の修正

(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

 悲観的にものごとを受け止めてしまう傾向、それもほどほどなら良いが、社会的不安障害であったり、行動に消極的な面が多くなったりと人生にマイナスの影響をもたらすのは問題だ。人が何に注目し、それをどう解釈するかということに関して、これまでブログで扱ってきた実験から見えることは、適切な認知のトレーニングをすることで改善する可能性が高いということだ。

 前回のブログで紹介した、「腫瘍」か「身長」か、当てはまる言葉を選ばせるようなシナリオを何百も用意し、被験者に選択する体験してもらう。だが、そのシナリオには工夫がしてある。選択肢がどちらも必ずポジティブな文章を完成させる言葉で用意されたシナリオを体験するグループの被験者は、その後、とても気分が悪くなるような刑事物のようなビデオを見せても、動揺する度合いがとても低くなったというのだ。

 これは、一つの例だが、他にも世界で多くの認知バイアス(偏り)修正の研究が進み、臨床で応用されている。それがとても盛り上がっているそうだ。それは、とても低コストであることと、インターネット活用で、患者が自宅でも行えるというメリットを持っているからだという。カウンセリングや投薬といったこれまでの不安障害の治療と併用する形で取り入れられていくだろうと本では紹介している。

 タクシーの運転手の海馬の肥大という事例は私も公民館での指導でよく使う。分かりやすいし、日常の生活ですぐ誰もが取り組めることだ。老化予防にウォーキングが良いとされ、毎日取り組んでいる人も多いが、決めたコースをただ健康のためと無心で歩くより、近所でもこんな道があったのか、この店は知らなかった、この細い道を通るとここへ出るとは知らなかったなど、発見があるのは面白い。体だけでなく頭や心も一緒に育てたいものだ。

 第5章「タクシー運転手の海馬は成長する」は今日で終わり、明日からは最後の章である「第6章、抑うつを科学で癒す可能性」に入ろう。