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有害な心のバイアス

(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

 この頃紹介した「電磁波過敏症」の彼女のように、人は困難な状況に陥ると、理由を探す中で、次第に「誰のせい?」と原因を他人や機械、社会のせいにして納得しようとする。それがしっかりした根拠に基づいた相関関係がない「錯誤相関」であっても本人はそれを絶対と信じ込むことが多い。もちろん私も他人事ではないが。

 それが個人レベルでなく、偏った世界観による国のあり方などにつながると大変なことになる。その有害なバイアス(偏り)は、これまでの歴史にも、そして今の世界の状況にも現れている。ロシアのプーチン大統領にしても同じだろう。ドイツ・ドレスデンに赴任し、ドイツビールを愛した彼が、目の前でベルリンの壁崩壊を経験する。絶対大事だと思っていた「安定」というパラダイムが否定された。東側諸国が崩壊することを市民は選んだ。ナチスドイツと戦った経験と東ドイツの崩壊が結びついて、彼の恐怖の回路に強く刷り込まれた。力づくでも「我が国の安定」を守らなければいけない。

 長い歴史の中で、多くの人を狂信的に惹きつけ、多くの人を犠牲にする侵略を行った政治家を分析すると共通項が見えてくる。人々を一つにまとめるために、「悪いのはあいつらだ」と敵対する関係を作り出し、「俺がいなければ酷い目にあうぞ」とヒーローになっていく。そういう有害な心のバイアスを人々に刷り込むことで、国民の世界観を自国中心の偏ったものにしていくのだ。

 この本の「脳科学は人格を変えられるか」の言葉がますます重く思えてくる。戦争に突き進んでいる国は、プロパガンダ情報を利用して人々の恐怖心に働きかけ、犠牲を伴う戦いをやむをえないものと思い込ませていくのだ。