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ものの見方と恐怖の回路

(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

「電磁波過敏症」になった著者の友人女性について前回書いた。そのまとめのところで著者は反省を語っている。原因をいろいろな角度、特に外からの影響に目を向けていたが、もっと早く彼女の脳の中で起こっていることに注意するべきだったというのだ。

 つまり、彼女は重要な面接を控えて緊張していて、携帯電話で話し続ける男性に大きなストレスを感じていた。発作の起きたその時のストレスと携帯電話への不快感は恐怖の回路に刷り込まれた。それがのちにカフェで発作が起きた時、その不快感と発作が結びつけられ彼女にとって携帯電話と発作の危険が直結したのだ。それ以後、発作が起きるたびに周りに携帯電話があることを確認したが、元気な時身近に携帯電話があるかどうかには目がいかなかった。

 こういった思い込みが恐怖の回路に働きかけ、日頃のものの見方にも影響を及ぼすことはいろいろあると思われる。たとえば割と一般的な「自分は太りすぎではないか」という恐怖感についても錯誤相関は起きる。つまり複数の出来事に相関関係があるように感じてしまうことで、ほとんど関係ないはずのちょっとうまくいかないようなこともそれが原因のように思い込んでしまうことだ。

 それについての実験が紹介されている。インディアナ大学で、女性の被験者186人にさまざまな容姿の女性の写真を見せた。それについて「幸せそうに見えるか、悲しそうに見えるか」と「太り過ぎているか、痩せ過ぎているか」の2点に注目するように指示する。事前に写真は肥満度と表情には一切関連がないように入念に調整されている。微笑んでいる確率は全く変わらないのだ。しかし、被験者が〈見た〉ものはだいぶ違っていたという。被験者は痩せている女性は幸せそうな表情を浮かべ、太っている女性ほどは悲しそうな表情をしていると確信していた。この錯誤相関は、被験者自身が深刻な摂食障害を抱えている時は強く現れたという。恐怖の回路が〈ものの見方〉に影響を及ぼしている事実が浮き彫りになっている。