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大人になってからの脳の可塑性

(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)

 脳が、身体の障害(聴力や視力他)を補完するために、空いている神経経路を活用して別な体の部分の感覚を処理することについて前回扱った。それらの脳の可塑性についての研究はまだ進行中で、意見が分かれているものも多いらしいが、どんどんと明らかにされている。本には、その研究の歩みが紹介されているが、このブログは脳科学の研究を深める場ではないので省略しよう。

 ただ、大人になってからの障害に対しても脳が柔軟に対応できるのかは面白いので触れたい。まだ成長途上の子どもが、持って生まれた障害を脳の変化で埋め合わせていくことが確認されてきたが、大人ではどうなのだろう。

 ヘルシンキ大学研究チームは、大人になってから失明した人たちに複数の音を聞いてもらい、その間、視覚野に強い活動が起きることを確認した。つまり本来「見る」ための組織が、「聞く」ことに反応したのだ。

 また、ハーバード大学神経科学者レオーネは、被験者が五日間ずっと目隠しをしたまま生活をする実験をしたが、なんと1週間後には、二つの音を聞き分けようとしたり、何かに触れた時、視覚野に反応が現れたのだ。脳内でほとんど使われていなかった回路が息を吹き返し、再利用されたのではと考えられている。まだこれは研究途上だが、明らかになってくれば、パーキンソン病やアルツハイマー病などの退行性脳障害の治療への大きな可能性を持っていると思われるそうだ。