(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)
タクシー運転手の海馬が成長するという研究事例を紹介したが、他にも裏付け証拠がある。私にも関係があるのでうれしいが、「音楽家の脳も変化していた」という事例だ。
プロの音楽家の演奏は、1分間に何百もの音を正確に、しかも表情をつけて演奏する素晴らしい作業だ。その音楽家の脳をMRIでスキャンすると、複雑な音を聞き分けたり、精密な動きをしたりするのに関わる脳の領域が一般の人に比べてはるかに大きくなっているというのだ。しかもその人の行った練習量に応じて変化することも明らかになってきているそうだ。
ただ、困る病気も紹介されている。「局所性ジストニア」という神経疾患だ。例えばピアニストの場合、小指と薬指が屈曲し指を早く動かせなくなる。それは指だけでなく職種や生活のパターンに応じて、いろいろな部分の筋肉で起こりうる。皆さんも、似たような経験はないだろうか。それを起こす仕組みは、“体性感覚皮質”と呼ばれる脳内の細い紐のような部分に、体の各部分を管理する機能が集約されているのだが、ある指をしじゅう一緒に使っていると、それぞれの皮質上の割り当てが拡大し、しまいには一つにくっついてしまうというのだ。脳が、2本の指を一個のまとまりとして見てしまい、その動きを一つで済まそうとしてしまうのだという。
ネットで調べてみると、それを発症した音楽家や芸能人の名前がたくさん上がってくる。ピアニストだけでなく、ギタリストやドラマー、歌手や声優もいる。私はパソコンのキーボードを10本の指を動かして素早く打つことができるが、これも気をつけないと該当するものだろう。今は退職してわずかな時間しかやらないので、認知症予防に良い程度だと思うが、これを職業にして一日中キーボードを打っている人は気をつけてほしい。脳は想像以上に変化する柔軟な組織なのだ。