(このブログは、文芸春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)
「楽観的な性格を性格をもたらす遺伝子はあるのか?あるとすれば何で、どんな働きをしているのか」こういった研究が世界中で進められてきた。結論から言うと、遺伝子にそう言う性格の形成につながる働きは存在するが、それは、どのような環境で育てられたか、どんな喜びや困難と出会ったかなどによって変化が現れるらしい。同じ遺伝子でありながらその働きに変化が起こるのだ。「後成遺伝学(エピジェネティクス)」という研究がそれだ。
DNAの配列(それぞれの遺伝子の型)が、髪の色や身長などの肉体的特徴、さらには、人格や感情などにも影響を与えるのはほぼ間違いないだろう。だが「それが絶対だ」という見方はくつがえされている。遺伝子の作用は、その人がどんな体験をしたかによって、生きているあいだじゅう変化しうるというのだ。今日はその例を紹介しておこう。
スウェーデン最北端のノルボッテン県のオベルカリックスという小さな村での調査だ。1905年に生まれた住民から99人をランダムに選び調査した。少年の頃、ある冬は飢餓、次の冬は飽食という経験をした男性の子どもやさらにその子ども(孫)が、概して平均より短命になるのだ。子供の頃に飢餓の冬と飽食の冬を連続して経験した人々の体内では、次の世代やそのまた次の世代の寿命にまで影響するような生物学的変化が起きていたというのだ。
また、別な調査では、11歳以前から煙草を吸い始めていたという父親の子どもについて調べた。その結果、女児ではなく男児のみ肥満をあらわすBMI値が9歳の時点ですでに極めて高くなっていることがわかった。父親の喫煙を始めた11歳といえば思春期直前で、次代に影響を及ぼすエピジェネリックな遺伝的変化を起こさせるだけ体が成熟してきている。そんな児童の時からの喫煙習慣が次代の遺伝子の働きにマイナス要因として引き継がれているのだ。その男児たちが成人後に肥満や糖尿病を発症するリスクが高く、寿命も短くなる可能性がある。これは、上の事例の飢餓と飽食を連続で経験した親から生まれた子が平均より短命だったのと同じ筋書きだ。