(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは昨年の12月12日です。)
恐怖の回路の最も大きな働きをしているのが「扁桃体」であることに触れてきた。その役割について整理しておこう。2月24日にてんかんの治療のため扁桃体を切除したリンダという女性について取り上げたが、同じように扁桃体を損傷した人を被験者としていろいろな実験が行われている。その中で扁桃体がはたす役割りが見えてきている。
リンダは手術後、恐怖の表情を認識できなかったり、人との距離がかなり接近しても不安を感じなかったりというような変化が生じた。一見他の人と何も違わないのだが、恐怖や怒りの感情の認識が特に大きく変化した。
さまざまな実験から他にも影響があることがわかってきた。表情だけでなく、さまざまな音声についての認識でも同じ傾向が見られた。「幸せ」「悲しみ」「嫌悪」「驚き」といったことを想像させる音声には一般の人と同じような成績を出したが、「怒り」「恐怖」を想像させる音声には一般の人の3分の1程度の認識しかできなかった。
他にも、「信頼できそうな人の顔」の見分けや、賭け事などでのリスク回避の現象についても、一般の人と大きく差が出た。つまり、人は概ね、眉尻や目尻が下がっていたり鼻梁の下が浅かったりなど、やわらかい表情の人を信頼できそうと判断する。その逆に眉根が下がり口元もへの字のように下がっているような怖い表情には警戒する。ところが扁桃体に障害のある人はそのような自然な警戒機能は無くなっていた。賭け事でも、一般の人は危険回避するような割の悪い賭けにも引くことはなくどんどんかけてきたそうだ。
一部だけの紹介だが、このように扁桃体には社会的な危険から身を守る作用があるのだ。ただその作用が強すぎたり、強烈な恐怖によって脳の論理的な働きが遮断されると、それが日々の生活にも尾を引いて、人生から輝きを奪う可能性もある。