(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートしたのは、昨年の12月12日です。)
恐怖のシステムの中心にあるのは「扁桃体」だという。脳の原始的な組織は長い人類の歴史の記憶(記録)を消さずに持っている。そして、それに近いような脅威に出会うと脳内で発火するというのだ。本に紹介されているのは、ヘビだ。現代は稀にしか出会うことはないのに、ヘビは今でも激しい恐怖の反応を引き起こす。何百万年も前の先祖にとって脅威だったものごとは、皆同様の反応をもたらすという。
普段は意識していなくても、そういった脅威に対する反応は多くの人に出るという実験が紹介されている。大きなスクリーンに九枚の写真を一瞬映しだす。九枚とも全て同じか、一枚でも違った写真があったかをボタンで反応する。興味深い結果は、一枚だけ異なる写真が混ざっていた時に、それがクモだったりヘビだった場合、被験者の反応が早かったというのだ。恐怖を感じさせる写真はそうでない写真よりすばやく人の注意を引くのだ。
また、被験者にストレス反応が出たかどうかを確認するために、手のひらに汗を感知するセンサーをつけて写真を映し出す実験もされた。ヘビ、キノコ、花、クモの映像を千分の14秒映し、すぐ意味のないグチャグチャの線画が2分の1秒画面に現れる。マスキングという技法で、被験者にはグチャグチャの画像ばかりで、どんな写真が映し出されたかを被験者は認識できない。ところが、ヘビやクモが映し出された時は、被験者の手には汗がにじんでいたという。花やキノコの時はそれはなかったという。この一瞬の生理学的反応から、たとえ被験者が視覚では何も認識できなくても、危険が確かに感知されていたということなのだ。人間の脳の危険を感知する構造についてもう少し調べていこう。