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自分はモテると思い込む男性

(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートしたのは、昨年の12月12日です。)

 オプティミズム・バイアス(楽観的偏向)、つまり自分は良い状態だと前向きな幻想にとらわれる心理についてふれた。本には、オプティミズム・バイアスが人間に利益をもたらす一例として、男性が女性に対するアピール力を総じて過大に評価している実験例が紹介されている。

 カンザス州立大学の心理学者フランク・ザールの行った実験だ。初対面の男女で49組のペアをつくり数分間の会話をさせた。その会話の様子をビデオにとったものを、別のグループの男女に見せた。ビデオを見た女性はおおかたが、「会話に参加しているほとんどの女性からにじみ出ているのは、ごく一般的な愛想の良さだ」と評したが、同じビデオを見た男性はだいたいが、「女性たちからは男性に対する性的関心があらわれている」と解釈した。

 さらに二つの実験も行った。管理職の男性が女性従業員と会話する場面と、男性の教授が女子大学生と会話する場面を見せると、男性は総じて女性の単なる友好的な態度を性的な誘いだと解釈(もしくは勘違い)したというのだ。

 心理学者によると、これはべつだん不思議なことではないと言う。男性は進化論的な観点からいえば、できるだけ多くの相手と交尾しなければ生存競争を勝ち残れない。だからたった1回でも「つがう」チャンスを逃すことは大きな痛手になる。逆に相手から拒絶される痛み(ショック)はほんの一瞬で、さして残らない。男性にとっては自分の魅力を過信するのは、きちんと採算のあう行為なのだと。自分に良い波長を送ってくれる女性に積極的に反応するのは大事なことなのだ。ただ、その思い込みのために相手を傷つけるような性格は間違っている。

 最近は、ジェンダーフリーが重要になってきているので、上の事例は誤解を招きそうだが、ジェンダー(社会的・文化的性差)とセックス(性別)についてはしっかり理解しないといけない。生物学的性差は生まれ持ったものなので変更はないし、生殖に関する進化の歴史で、男女の脳の働き方の違いや心理的な行為の違いは確かにある。ただ、単純に二つに分けられるものではない。血液型も4種類ではなくて、何千種類と分けることができるそうだが、男脳・女脳についてもさまざまな傾向がある。またいつかそれについては、ゆっくり考えよう。

 ただ面白いので東京学芸大の検査についてふれておこう。空間能力や論理性の高い男脳と、言語能力性や協調性の高い女脳の傾向を学生で調査したこところ、男子学生で男脳の傾向を持つ者は71%、中間型は17%、女脳の傾向を持つものは12%だった。女子学生では、女脳が59%、中間型が32%、男脳の傾向を持つものが9%だった。女性が女脳の傾向を持つ割合よりも、男性が男脳を持つ割合の方が多いことや、女性の方が男脳や中間型を持つ傾向が多いことが見えてくる。いずれにしても、性別だけで簡単に色分けしてはいけないのだが、心理学的に分析した結果は日頃の生活に現れるので、気をつけて見ていくと面白い。

 前向きな幻想の強い男性も多いので、男性に声をかける時は自分に気があると誤解されないようなことには気をつけてくださいね。