(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。スタートは、昨年の12月12日です。)
今日から第二章「修道院の奇妙な実験」に入る。
楽観の効用について根拠のないおいしい話もいろいろ世の中に出ているが、ある実験のことが本に紹介してある。楽観のもたらす利益の中でもっとも驚きを持ってしまう寿命に関する研究だ。
デボラ・ダーナーとケンタッキー大学の同僚らが行った調査だ。全米各地の180人のカトリック修道女が書いた日記帳を検証した。彼女らが1930年に修道院に入った時から、約60年にわたって追い続けたのだ。調査開始時の平均年齢は22歳。終了時の年齢は、75歳から95歳。研究チームは、修道女たちの日々の出来事や事件にどう反応したかのサインを求めて日記を注意深く検証し、どの修道女が楽観的なものの見方をするか、どの修道女が悲観的な世界観を持っているかをデータに落とした。
研究そのものは荒っぽい面もあり、理想の調査ではないかもしれないが、当時としては最善だったし、結果的にたいへん貴重な研究となった。修道女を対象にしたのは、生涯の大半を世間から隔絶した状況で過ごし、食事や生活習慣も個の差が少ないためだ。
1990年代に研究チームがまとめた時、180人のうち76人が死亡していた。注目すべきは、楽観的な修道女がより長生きしていたことだという。若い頃、陽気で明るい日記を書いていた修道女は暗い日記を書いていた修道女に比べて、平均で10年も長生きしていたのだ。そこにはどのようなメカニズムが働いているのか、生き方にどのような影響を及ぼしていたのか見つめていかなくてはいけない。