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脳の役割分担

(このブログは、文藝春秋社刊「脳科学は人格を変えられるか」を参考に、私の思うところを書いています。)

 脳の可塑性について昨日は考えた。そこで思い出したのは、下半身がない一人の障害者のことだった。だいぶ前に脳と体の発達に関する番組で見たもので、記憶が曖昧なのだが、車椅子の陸上競技でありえないほどの成績をあげた女性についてだった。

 その女性は、施設に預けられていた時、窓から見える歩く人たちの姿や、施設の仲間が綺麗な新しい靴をもらって喜ぶ姿を見て、自分も靴が欲しくなる。そして、両腕だけで歩く訓練をとことんおこない、手にはめる靴をもらったというのだ。その女性について、陸上競技で素晴らしい成績を上げることに関心を持った脳科学者が調べると、一般的には足の動きを担う役割のある脳の部分が、腕を動かすのにも関わっていたというのだ。(少々の誤りは、記憶に頼って書いているのでお許しを)

 体の足りない部分を、他の部分が代わって役目を果たす時、脳がなんとかその役目を果たそうと変容している。つまり、実際にはない足を動かす情報の処理を腕を動かすために活用しているというのだ。点字を利用したり、物音や匂いに敏感に反応したり、目や耳に障害のある人が、指先や鼻など別な部分をとても鋭敏に発達させることはよくある。

 生きていく上での出来事に対する対応も、同じなのではないだろうか。サニーブレイン(晴天脳)の中心は、神経構造の中でとくに、報酬や気持ちの良いことに反応する快楽の領域にあり、レイニーブレイン(雨天脳)の中心は、脳の古い構造部の中、とくに危険や脅威を警戒する恐怖の領域に存在しているという。その二つの領域をどのように働かせて生きて来たかによって、ショッキングな出来事に出会った時、対応の個人差が現れる。逆にいうと、対応の仕方を楽観的にするには、日々の中で、快楽の領域の脳を活発に働かせることでチェンジしていくことができるのではないだろうか。

 いよいよ第1章「快楽と不安の二項対立」へ話を進めていこう。