信濃毎日新聞社刊「戌の満水」を読んでいてとても大事な情報だと思ったのは、長野県に被害をもたらす台風の進路についての説明だった。長野県は内陸性の気候なので、大雨による被害をもたらす要因の多くは台風だ。それもコースによって被害の状況が大きく変わるのだ。
主に3つあるのを知っているだろうか。
一つ目は、最も甚大な被害をもたらすと思われる「中央部縦断コース」だ。その名前の通り、名古屋から伊豆半島の間あたりに上陸して、上越方面に向けて長野県を縦断するコースだ。昭和34年の台風7号は、8月10日、富士川に沿って北上し八ヶ岳あたりを通り北上したのだ。その大災害が冷めやらぬのに、台風15号(伊勢湾台風)が9月26日に襲来したのだ。この時私は小学校1年生。父親が玄関や窓に板を打ち付けて備えをしていたのを覚えている。激しい風が吹き、窓の板の隙間から見ていると、トタン屋根が空を舞っていたのを覚えている。
二つ目は、「東側北上コース」。浅間山麓など東の山地に大雨を降らせ、山梨・群馬と長野県に流れ下る。千曲川上流の大雨で水害が起こりやすい。昭和57年9月の台風18号による被害で松代町が冠水した写真が本に載っている。海津城址の横から今は高速道路が通っている付近にかけて冠水している。西寺尾付近はあまり水がついていないので自然堤防で2〜3メートル高いのだろう。水がついた海図城址横は、昔の千曲川流路があった場所らしい。戌の満水の後、松代藩によって城を守るため流路を変えたのだ。
三つ目のコースは、「南岸東進コース」。日本列島の南側を東に進み、秋雨前線を刺激するなどして、大雨をもたらす。典型的な「雨台風」。長沼に被害をもたらした台風19号は、東海地方から関東地方に強い勢力を持ったまま進んでいるので、このタイプではないかと思う。浅間山麓に大雨を降らせ、時間を遅らせて長野盆地に被害をもたらしたのだ。雨が止んできたからなどと、川を見に行くのは大変危険だ。空模様を見て、「大丈夫そうだ」と言って自家用車を避難させずにいたら、あっという間に水が押し寄せたという話を聞いた。このコースは、犀川・千曲川に被害をもたらす台風だが、雨台風なので、上流の情報をしっかり把握することが大事だと思った。
それだけではなく、長野盆地の成り立ちに関心を持ち、水害や山崩れなどの災害の可能性を知っていることが大事だと思う。大きな施設を作るために広い土地を求めると、どうしても過去の災害があった場所になる可能性がある。