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働き方の未来と選択 その15

 「自分という存在を確立していく」ことの大切さに昨日は触れた。そのことを考えていたら自分の教師としての大きな転換点になったある子のことを思い出した。

 AK君、フルネームも表情も良く覚えている。附属松本小学校で2年生から4年生まで3年間音楽を教えた子だ。

 それまでの教員生活で、それなりに指導力は買われていた思いはあるが、附属に行って自分はどれだけ個に寄り添った指導をしてきたろうかと反省させられた。研究授業をするにも、それぞれの子の思いをしっかり掴んでいなかったことに気付かされた。

 それから自分の授業を大きく転換させた。全員に学習カードを毎回1枚配り、自分の考えや追求の歩みを記録できるようにした。画用紙の台紙に、カードの上の方を毎回糊で止めて、紙をめくると前の時間にやったことを確認できるようにした。

 そして、私は40人もいる児童全員のカードを読み、その子らしい受け止めや工夫している良さをマークペンで色付けし、必ずコメントを書き入れた。それは、もっとこうしなさいというような指導ではなく、「良いところに気づいたね」とか、「そこは大事なところだからがんばってね」などと、支える言葉を書き入れた。

 授業は、自分の「表現の願い」や「今日のめあて」に沿って、各自考えのもとに活動できる時間を確保した。自分がやりたいと思った子とペアを組んで一緒に歌うのだ。次々といろいろな子と歌ってみて、自分の歌い方を検証していくのだ。一緒にやった仲間は友達の良いところを見つけて感想を言い、必ず「ありがとうございました」と言い合って次の仲間を探すのだ。最後に、発表の場を持ち、その日やったペアで2、3組に発表してもらい、各自自分の1時間の活動のまとめをカードに書き込んで終わりとなる。

 一人の活動だけでは、深まりにくいと思った。でも3人組にすると集団になってしまって、個を出せない子が出てしまう。2人だと自分自身を見つめざるを得なくなるのだ。

 AK君は、最初に会った時、布製の音楽袋を振り回し前の席の子に当てて泣かせてしまうような手のかかる子だった。しかし、私と3年間学ぶ中で、音楽が大好きになり、4年生で別れる時、「先生、僕は来年合唱部に入って、県大会に行って先生に会いたい」と言ってくれた。クラスの中で、お邪魔虫的存在で、声がかすれて出にくくて、リコーダーも鍵盤ハーモニカも一人ではうまくできなかった子が、音楽の授業が好きになって、先生が大好きになってくれた。AK君が自分の欠点と向き合い、仲間が支えてくれることを嬉しく思い、自分らしく生きることが大事だと体験できたのだ。その歩みを教師として目の当たりにした思い出は、逆に私に大変な財産をくれたように思う。その思い出を振り返りながら、個の確立について私の考えを整理したい。