もちろんお金は人が生きる上で、安全の欲求を満たす手段だ。本の中では、「お金は欲求のピラミッドの底部に位置する要素だ。それなのに、仕事に関する古い約束事では、お金が仕事の中核を占めるものであるかのように扱われている。」と説明している。
そこで、お金があれば幸せが増すのかというと、そこには大きな問題があることが見えてきている。高額の宝くじに当たった人は、当選直後こそ気分が浮き立つが高揚感はたちまちしぼんでしまう。給料が25%アップすれば、もちろんうれしいと思えるが、幸福感や仕事への満足感が高まるわけではない。逆に評価されない時の不満感は簡単に膨らむだろうが。
収入が増えるほど、それに合わせて贅沢なライフスタイルを実践するようになり、多少のことでは幸せを感じなくなる。以前は幸せと感じたはずの経験に心を動かされなくなる。踏み車の上を走るハムスターのように、「幸福感の踏み車」の上を走り続け、いくら走っても前に進めない状態に陥りやすい。私たちはご褒美を頻繁に手にしすぎると、あまり感動しなくなるのだ。
そのようなことを経済学の分野では「限界効用の逓減」と説明されている。あるものを得る数や量が増えれば増えるほど、それに価値を感じなくなるという法則なのだ。お金と消費には限界効用逓減の法則が当てはまるが、それ以外の経験にはこれが当てはまらないという。
例えば、高度な専門技能を磨けば磨くほど、あるいは友達の輪を広げるほど、私たちが手にする効用は増える。技能や友達は増えるだけ新たな喜びが増すのだ。昨日の「経験の価値が過小評価されている」という言葉はここに当てはまるのだ。