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連続スペシャリストへの道 その7

 「仕事とは意義を見出すプロセスである」というサルトルの言葉を紹介したが、それは、「本当の自分らしさと個性を獲得することが重要だ」と考えていたということなのだ。

 私たちの職業生活で重要なのは、高度な専門技能に習熟するための深い経験だという。それは簡単に身につくものではなく、努力して学ばなければならないものだ。

 今日も中学校の合唱指導の手伝いに行ってきた。先月頼まれた時は、数回行って、審査員経験者として注意すべき点をいくつかアドバイスすれば良いと思っていたが、顧問の悩み事や目指す熱意、そしてコロナ禍で思いがけない困難対応など相談にのっているうちに、どっぷりとハマり指導者の一員になってしまった。昨夜は、楽譜を分析し、YouTubeでさまざまな演奏を聴き、楽譜に指揮の要点を書き込み、自分でも繰り返し指揮してみて、今日の練習の狙うところを整理して寝不足で学校へ行った。

 プロはその道に2万時間をかけるというが、振り返ってみると、私は中学で合唱部に入り、高校では指揮を受け持ち、大学では教員養成学部の音楽科に所属し、合唱サークルも大学と一般の両方をやった。合唱に取り組んだ時間は2万時間を簡単に超えた。さらに、指揮者として大学の合宿3日間を指導するとなれば、かなり事前の準備も必要だ。そんな集中した時間だけをカウントしてもかなりになると思う。ちなみに昨日は夜顧問から電話で悩み事の相談を受けてから、自分がやるべきことを整理して予習するだけで、3時間ぐらいはかかっている。

 サルトルの考えに戻ると、人間は自分の行動の総和に他ならず、意義ある人生を送れるかは、意義ある仕事をこなせるかどうかに大きく左右される。楽しさとやりがいを見い出せる要素と仕事を切り離せば、機械的な作業を短調に繰り返すだけになり、その人の本質をなす要素の一つが薄まって、自分らしさが失われると考えたのだろう。