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大人の用意した「現実」

 前回、「企業に加わる前の段階で、何を学ぶべきか自分で決めようとする人が増える」ということに触れた。また少し前に、企業に加わってから、自分のやりたいことを探し続け、また教育の道に「成人大学生」として戻る人も外国では多いということも話題にした。フリーランスのことにも触れたが、自分の本当にやりたいことを実現するにはその道の一流のプロになることが必要なはずだ。「自由」とか「楽な生活」を期待するのは危険性が高い。自分の能力アップのため、インターネットでの無料オンライン講座(MOOCs)などで学ぶのは年齢の中央値が41歳だということにも触れた。

 そんなふうに教育のあり方は大きな変革を迫られている。「ライフシフト」の本の中には、「破壊的イノベーションの機が熟している」とある教授の言葉が紹介されている。つまり変化(改革)の遅い教育の既存勢力は次第に劣勢に立たされ、やがて新興勢力に取って代わられるというのだ。

 実は、我が家の娘は、中学を卒業する時「私の行きたい高校は長野にはない」と訴え、東京の高校に進んだ。通信制のカリキュラムを活用し、コースを選んで学べるのだ。演劇の道にとことん取り組んだ後、言われたままに動く駒的な役者を続けることに疑問を持ち、留学して新しい道に進んだ。オーストラリアやニュージーランドでの生活を体験し、大学も国際関係に進んだ。企業に就職し、終電ギリギリまで粘り、営業成績でMVPを取るなど頑張った。普通の大人なら、これで会社で名をあげて昇進も間違いないだろうと喜ぶのが当たり前だろうが、自分の頑張りが正当に評価されていないと3年たたずに会社を辞め起業した。それは、勤めをしながら体験的に学んだ活動の中で、一番「無になれる」ことを選んだのだという。

 若者には色々なタイプがあって当たり前だ。ただ、10代後半は最も夢に溢れた時代であってほしい。日本は学力面では世界でもトップクラスなのに、自分を信頼する心はとても低いと聞く。大人たちが、中学生、高校生に「現実は厳しいぞ」「そんな甘い気持ちではダメだ」と、励ます気持ちで言っているのが間違っていると思う。平田オリザの「幕が上がる」という小説を読んでほしい。若者が無限の可能性を持っていると思えるように支えてほしい。