シミュレーションとフィードバックとは、なんとなくやってみるのではなく、結果を予想して行動し、常にその結果に目を向け、新しいシミュレーションを更新していくことなのだ。と言っても難しそうなので、教育の世界で語ってみる。
よく研究授業を参観したり、指導したりした。指導案を作るには、指導する内容を決め出し、子どもたちの実態を調べ、どのように授業を展開するか考える。私は音楽だったので、答えは一つではない。子どもたちそれぞれの心に広がる世界は個性的で、それに寄せる思いも様々だ。大事なのは、自分の願いにそって表現が高まってくることを実感し、音楽することを喜びにつなげてくれることだ。もちろん技能も大切だが、熱意を育んでこそ追求する態度を育てることができる。
他の教科の場合、どうも「一つの答え」、または、「一つの考え方」にねらいを置くため、子供の意見を修正しようとする教師の計らいが強く働く。「他には?」と意見を求め続け、自分の求めている言葉を子どもが発すると「そうだね、それはこういうことだね」と自分の言葉に置き換えて、まとめてしまう。たまに発言した子が不安そうな顔をすることがある。そういうつもりで言ったことではないのに、いつの間にか都合よく置き換えられているからだ。
間違った発言でも、それが子どもたちの認識を知る手がかりになる大事なものなのだ。どうしてそう考えたのだろうとか、他の子もそんなふうに考えているのだろうかとか、どう返していけば、みんなで考えを再検討できるか、その連鎖が「シミュレーションとフィードバック」だと思う。
世の中はゆるやかに「人生100年時代」に変容してきている。青年期から成人期に移行しようとしている今の若者たちの半数以上が100歳を超える。生き方について選択肢の幅が広がるのだ。答えの多様な時代に進んでいることを理解したい。「私はどういう人間か?」という問いの答えは、長い人生の間に多くの自己像を産んでいくのだ。答えを教えるのではなく、何をしっかり見つめ、どのように進路を描くか(シミュレーション)を教え、その結果をどう受け止め、どう分析することで次の自分を描くことにつながるのか(フィードバック)を教えていかなくてはいけない。自己を認識し、目指したい自己像を描き、方法を工夫し、常に振り返りながら修正していく「計画と実験」の時代なのだ。