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シミュレーションとフィードバック

 前回の「人生を選択する自己意識」で、「あと何年生きられるかわからないが、それに関係なく今の自分を生かす方法を探し続けたい」とまとめた。しかし、「そんな先のことわからないのに計画なんてなんの意味があるのだ」と言われそうだ。だから「結果を出すというより、それに向かって日々充実した生き方をすることそのものが、自らの価値観や希望に沿った生き方なのだから」と加えた。

 ライフシフトの本にも、「未来を論じてきたが『私は何者か?』『私はどのように生きるべきか?』という問いに答えられるのは、結局のところは本人しかいない。人生が長くなれば、これらの問いは無視できないものになる」と、書かれている。今の自分は何で、未来とどうつながっているのか、そのアイデンティティを見つめる日々が大事になってくるのだ。

 それを解き明かすための提案に話題が進んでいく。まずは「計画と実践」(P360)という項からだ。

 私は高校生のキャリア教育に関する研究会で、進路指導担当教師や地域の経営者たちを相手に講演をしたことがある。テーマは「一流のビジネスマンとは」だ。プロの世界を目指すものたちが大事にしているのは「シミュレーションとフィードバック」だというのが論の中心だ。

 私たちは往々にして、「なんとなく」「世の中のながれ」に流され、誤った楽観主義に陥るとされている。「未来に対して愚かなほど楽観的な考えを持っているからだ」と経済学者のダニエル・カールマンは言っている。

 先日ブログに、ある東北の寿命の短めの県の人が、「そんな長生きしたってしょうがねえ」と言っていた例を挙げた。しかし、その県の長寿の人の比率はそんなに変わらないのだ。問題は、40代後半から60代にかけての死亡率が高いことに気づいていないのだ。

 今日のテーマの「計画と実験」は、計画すればいい、やってみればいいということではなく、事実を分析的にしっかり受け止め、それに基づいて実験的に良いと思うことをやってみて、その結果について振り返り次の実践につなげることなのだ。それが「シミュレーションとフィードバック」なのだ。何が自分にとって良い結果をもたらすのか、まずはよく見つめることだ。