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長時間働く人の理由

 「時間貧乏」という言葉を生み出すような長時間労働の背景を調べよう。

 人々の平均労働時間が減っても、全ての人の労働時間が減ったわけではないのだ。20世紀の間に興味深い逆転現象が起きている。1世紀前、長時間働いていたのは、貧困層・低スキル層だった。産業革命で生まれた工場で長時間働くのは、そうした人たちだった。生きていくためにしっかり働く必要があったのだ。逆に高所得の人は「有閑階級」などと呼ばれ、時間を持て余していたのだ。

 しかし、1990年代ごろ、貧困層・低スキル層と富裕層・高スキル層の労働時間が完全に逆転したという。(そのデータ等の詳細は「ライフシフト」297ページを見てほしい)私が教頭の頃、最も遅くまで学校を守っていて、ふと若い職員に「一番時給が低いのは俺かも」とふざけてつぶやいたことがある。そんな長時間労働を選択する理由はいくつかある。

 まず「代替効果」といって、労働の面から見ると、賃金が上がると余暇(働かないこと)のコストが高まるということ。つまり、もっと働けばたくさんもらえるのにもったいないという意識だ。

 また、ステータスの問題もある。長時間働く人は、自分が必要とされていると感じているし、他人から高く評価される可能性を感じている。その期待感や心地よさから長時間働くことを好むのだ。

 労働市場の環境にも左右される。少々の油断でも大きな損失につながるような仕事など競争の激しい仕事は、長時間働くことで大きな成功をおさめる可能性がある。

 このように収入や評価など自身の労働対価のアップを目指すことが、喜びや仕事の満足度につながると感じている人は、長時間働くこと厭わない。ただ、大手の広告宣伝会社で、そのスキルの高さが競争に打ち勝つ日々を過ごしていた上司が、自分の部下である若い社員に無理を強いて生きることができなくなってしまう状況に追い込むような事件があることを忘れてはいけない。それは教員の社会にもあった。