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時間貧乏

 ライフシフト第8章の本題に入っていこう。私が教員を辞めて嘱託職員として勤めるようになった時、一番感動したことは、「毎日決めた時間に3食食べることができるようになった」ということだ。今思うとそんな当たり前のことができない人生をよく過ごしてきたなと思う。人生100年時代で、寿命が伸びたから自由に使える時間が増えるという考えもあるかもしれないが、本では労働時間や余暇の分析を中心に語っている。

 ケインズは、「余暇をどのように過ごすかという問題に人類は初めて直面する」として、余裕の時間が増えることを課題として論じたようだ。確かに経済活動の変化によって生産性が上がり所得や時間の余裕は増えた。ただ、それによって人々は、より多くの余暇を求めるようになったかというと、さらに物質的豊かさを求めるようになった傾向が強い。長く働くことを選択する割合が増え、ケインズの予測のようにはならなかった。むしろ「時間貧乏」というような言葉が生まれる状況で、いつも慌ただしいと感じている人が増えているようだ。

 日本は戦後の世代間の人口比のアンバランスもあって、少子高齢化という言葉が飛び交い、のんびり余生ということよりも「生涯現役社会」とか「エイジレス時代」などと、年齢に関係なく働き続けることが普通になりそうだ。自分の人生にとって与えられた時間をどう過ごすのかしっかり見つめていかなければいけない。

 教員の世界を振り返っても、子どもへの対応や授業の準備だけならば良いが、社会的要求の変化からさまざまな事務処理や報告書づくり、保護者対応など勤務時間外にやる仕事の量や難しさは重くなっている。時間の使い方は各個人のレベルで片付けられる問題ではなく、社会が決める要素が大きいのだ。本当に3食決められた時間に食べられることのありがたさを実感している。