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ポートフォリオ・ワーカーへの移行

 ポートフォリオ型の人生は異なる活動、仲間・目的に関わることで思いがけないほど面白さや達成感を味わせてくれる。特にシニア時代を目前にした人たちには、そんな可能性を広げるビジョンは魅力的なものだろう。それに行き詰まると、特に専門分野でレベルの高い仕事をしてきた人にとっては自分の存在を支えられないような喪失感を持ってしまうこともある。

 この頃、自分が世話になっていた精神科の医院に放火して大勢を巻き込んだ事件も、犯罪を犯した背景に、技能面でこだわりのある作業員だったそうだが、家庭での人間関係だけでなく自分が役に立っていた仕事も離れることで、その不安を何かにぶつける道を選んでしまった気がする。

 ポートフォリオ・ワーカーへの移行に成功する人は、早い段階で準備に取り掛かるという。自分のことを思い返すと、ポートフォリオ・ワーカーを目指して準備したわけではないが、様々な運営委員などの委嘱を受けたり、音楽でも単に趣味を楽しむを超えて指導をあちこちで担ったり、学校の仕事でも研究面で多くの時間を割いたりしていた。その中で、本来の仕事を超えて人間関係が広がり、知識やスキルも向上し、教育の世界だけでなく様々な活動に繋がってきた。そして、学校教育を離れて社会教育を大学で学び直したことで、それまで培ってきた無形資産がさまざまな具体的な活動として活かせる状況に変化してきた。

 生涯現役促進事業で講演会を依頼されたが、そんな体験の積み重ねがそんな仕事の依頼にもつながっていたように思う。今後、マルチステージを経験することが求められる時代で、そんな移行準備をなんとなくではなく、自分なりに見通しを持って計画的に行うことが大事になってくるだろう。