長寿化がもたらす人生の恩恵はもちろん「時間」だ。これをどのように「恩恵」と呼べるものにするか、それは何となく過ごしていて得られるものではないだろう。目的意識をもって有意義な人生を形づくっていきたいと切に思う。
新しく出現する人生のステージにどう向き合い、何を選択するか、これまでとは違って複数のステージを経験する可能性が高まる。ライフシフトの本では、それを「エクスプローラー」インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」の三つの面から考えている。このブログでも今後順番に説明していこう。
ただ、今日はそれに入る前に、選択肢の多様化に対してどう向き合うか根本的な部分で掘り下げてみたい。
これまでの3ステージの一斉行進的な時代と大きく変わるのは、「エイジ(年齢)」と「ステージ」が一致する時代が終わりを告げるということだ。教育から仕事への転換は、18歳から20代前半ぐらいの人だけではなくなる。30代で学び直したり、40代で転職したり、60代で起業したりといろいろな可能性が出てくる。高齢化とは、退職して老後が増えるということではなく、若々しく生きる期間が長くなるという面があるのだ。
父の実家の祖父の写真は、60歳で赤いちゃんちゃんこを着て、夫婦で還暦の記念撮影をしているが、本当に背中を丸めて「ご老人」を感じさせる。今の60代は背筋を伸ばし、若者には負けないぞと当たり前に働いている。私も60歳で退職してから大学の講義を受けて、社会教育主事資格をとった。ちなみに我が家では還暦の祝いはしなかった。まだまだ現役で働くのが当たり前なのだ。
さらに、幼児が珍しいものを見ると目を輝かせるように、柔軟で興味を豊かに持てる行動パターンを忘れないでいたい。いや、シニアになったからこそ社会的な縛りを外して、思春期のような未知の世界に挑んでいく柔軟性を大事にしたい。動物が幼体の性質を残したまま成体になることを、進化生物学では「ネオテニー(幼形成熟)」というそうだが、そんな純粋さに魅力を感じるのは私だけだろうか。「誰もが若者の柔軟性と好奇心、そして高齢者の知識と洞察力の両方を得られるようになる」と、ライフシフトではまとめている。