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ありうる自己像

 無形資産の三つのカテゴリーについて考えているが、「変身資産」は、急速な時代の変化の中で、新しいタイプへの移行を成功させる意志と能力であり、それを支えるスキル(技能・知識)を常日頃リフレッシュする取り組みが重要だ。「変身」という言葉がいかにも今までにはない自分にガラッと変わるように思われそうだが、その底辺にはその人らしい一貫性があると思う。常に「自分とは何か」「何をなすべきか」「何に向かっている時が一番自分らしいか」などと内省し、自分のあるべき姿、今後目指すべきというか「ありうる自己像」見つめていくことが必要と思う。

 アイデンティティーについて、心理学研究や生涯現役のところで繰り返し触れたが、単に「自分とはこう」と今の自分を見つめるだけでなく、将来の自分を描くことで、今の自分としっかり繋がってくることが大事なのだ。それが混沌としているモラトリアムの状態が続いていてはいけない。逆に、今までの自分に固執して、「こうでなくてはいけない」という生き方に固まっているパターナリズムは、周りの人からも敬遠されてしまう。

「ありうる自己像」とは、未来に自分がどのような人間になる可能性があり、どのような行動をとる可能性があるかを表現したものだ。どのような自分になりたいか、どのような未来は避けたいか考え、できることならば希望の象徴となるような未来を描きたいものだ。それをイメージできる人が「変身資産」を持っているということだろう。

 人生100年時代、退職後に「さてどうするか」ではなくて、人生の午後という40代半ばから自身のアイデンティティーを再構築することが大事だろう。私の40代半ばは、初めての中学校で青年期入口の若者たちと向き合った時代だ。来週はそんな思い出を通して「ありうる自分」について考えていこう。