無形資産の三つのカテゴリー「生産性資産」「活力資産」「変身資産」について昨日触れた。その中で、日本の現状や将来についての不安に話題が入っていったが、やはり根本にあるのは一人ひとりの生き方の変容だろう。自分自身のスキルややる気、そして、自分を見つめ直し、新しい方向へ踏み出す感覚など、自分という資産をどう育てていくかが誰にでも共通する課題なのだ。
「自己投資」自分という資産をいかに高めていくかを考えているだろうか。無形資産は売り買いできない。80代になって、友人が少ないからといって、お金をかけて人間関係を人から譲ってもらうわけにはいかない。何歳になろうが、日々の生き方の中で積み上げていくしかないのだ。自分という存在についての知識が大きな意味を持つ。
自分のことをよく理解し、よく学ぶためには、「内省」が重要だ。しかし自分をなんとなく振り返るだけでは見えてこない。他の人たちにどう受け止められているかとか、自身としてももう一人の自分になって客観的に自身を見つめるなどして、自己認識や世界の見方を変更していくことが必要だ。「自分はこうなんだ」と理解するだけでなく、色々な状況の変化などに対応する能力を高めることだ。
理論的な言葉ではわかりにくいので、私の経験とつなげてみよう。
私は中学で先生に誘われて入った合唱の道で面白さを知り、高校でも続けた。1年生の時、ガリ版刷りのとても見にくい楽譜で練習していたことがあった。元譜のきれいなものを見ていた指揮者が「なんでいつまでもそんなところで間違えるのだ」と強く指摘したが、3年生の中から「この楽譜ではとてもうまく歌えない」といった反論が出た。真ん中の一列目にいた私のところへ指揮者が来て、私の楽譜をのぞき込んだ。確かに印刷が悪いことはわかったが、なんと私の楽譜は青インクのペンで自分のパートだけなぞって修正してあった。もちろん、指揮者は、「見にくければなんとかすればいいだろう」と私の楽譜をみんなに見せた。うれしいけど恥ずかしかった。
いきなり退職後に話は飛ぶ。市教委へ勤めることになったとき、ボランティアセンターの運営委員が前任者から回ってきた。そんな活動の経験の少ない私は不安だった。しかし、自分ができることは教育現場との関係かなと方向を決め知識を広げた。いつの間にか、助言者や講演を頼まれるようになった。それは自分の生き方と波長の合うところが多いと思ったからだ。自分の選択をもとに自分を活かした活動をする「ボランティア」の意味を大勢の人に知ってもらいたいと思った。
長くなって申し訳ないが、上の事例を二つ挙げたのは、「自己投資」とは何かを考えていたら浮かんできたからだ。自分のスキル・知識(生産性資産)には、例えば合唱や教育がある。高校で自分から指揮者になって高みを目指したエネルギー(活力資産)がある。そしてなんとかほっぺた回しでも自分に与えられた課題を自分なりに対処しようとする対応力(変身資産)につながる。
読みにくい楽譜だなあで終わらせず、どうすればいいのだろうとできることを見つけて取り組む。経験の少ない世界で自分を生かすことがあるだろうかと自己認識と目の前にあることの関わりを深めようとする態度。「自己認識」「内省」など、自分への投資をどうしていくか、さらに深めていきたい。