自分と社会を見つめる科学 その45

 人生100年戦略で重要な問題「無形資産」について考えていこう。詳しく自分で知りたい人は、東洋経済新報社「“LIFE SHIFT”100年時代の人生戦略」を読んでほしい。

 友人関係や知識・健康など誰にとっても大事なことだが、それを「資産」ととらえて言葉にすることはあまりない。しかし実際の生活では非常に重要な事柄であることは間違いない。本人が確保したものだけでなく、家庭の経済環境や容姿など、持って生まれた財産もある。もちろんそういったものも、本人の努力で向上を図る要素もある。ここではそういったことは置いておいて三つのカテゴリーから分析していこう。

 一つ目は、「生産性資産」人が仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素のこと。スキル(技能・手腕…)や知識など。

 二つ目は、「活力資産」肉体的・精神的な健康やバイタリティ。友人関係、パートナーやその他の家族との良好な関係など。

 三つ目は、「変身資産」長い人生を豊かに生きる人は、その過程で大きな変化を経験し、多くの変身を遂げる。そのために必要なのは、自分についてよく知っていること、多様性に富んだ人的ネットワーク、新しい経験に対して開かれた姿勢を持っていることなどだ。

 この中でも、人生100年戦略では、三つ目の変身資産は旧来の3ステージ人生ではあまり必要とされなかったが、マルチステージの人生では非常に重要になる。

 今週ずっとみてきたように、社会の変化スピードが格段にアップする時代に、どれだけ知識を持っているかも大事だが、そこにいかに柔軟性やイノベーション(革新)精神を発揮できるかが今後必要になってくる。教育の世界もそれに柔軟に対応していかないと存在価値を失う。私も大学院教育に進んだ人を何人も見てきたが、昔と違って「専門性」があっという間に旧態の知となってしまっては、学んだ意味がなくなってしまう。就職に失敗した若者が、より自身の価値を上げて、求められる人材になれるのならば良いが、時として、単に親の庇護のもと学生生活から巣立てないでいるだけなのがあるのは残念だ。(続く)