老年期の心理について、参考書をもとに整理していこう。参考にするのは、「サクセスフルエイジング しあわせな老いを迎える心理学」(PHP研究所刊、植木理恵著)
この本の著者である心理学者は、60歳代以降のカウンセリング事例などを取り上げながら、サクセスフル(幸福感にあふれた)な老年期の過ごし方についてアドバイスを提案してくれている。
まず、著者の取り上げているのが「定年うつ」「定年離婚」などだが、そこまでいかなくても、多くの夫婦が「まあ、こんなものだろう」程度の満足や諦念を持って過ごしているとしている。それが、それなりにある程度の幸福感を持っているのであれば問題ないが、多くの相談で、定年ごろを境に、「不眠」や「ヒステリック」な状況の相談の背景に、夫や妻以外の対象への恋愛感情や性的感情を求める心に必ずと言っていいほどたどり着くということだ。
8年間100件を超える相談事例(59歳から62歳の人)を整理すると、はじめはまったく違う話をしていても、実はドロドロした大人の恋の悩みで苦しんでいたというケースが、男性では30%、女性では45%にのぼるという。
有名な心理学者フロイトは、人間の根源的な生命力は「性欲(リピドー)」であると断言しているそうだ。それはいくら歳を重ねても変わらないものなのに、そのリピドーを無理に抑圧するから、人はうつやヒステリックになるのだと言い切っているとのこと。
日本ではその辺りの認識が影に隠れているのか、遅れているのか目につきにくいが、パリやニューヨークに行くと、高齢期の男女の恋愛が日常の中に溶け込んでいて、カフェでゆうに70歳を超えた女性と40代くらいの男性が見つめあって手を握り合っているような姿など、とてもナチュラルに見えるそうだ。恋愛ではなくても、友情、憧れ、親密さ、愛おしむ気持ち、こう言った精神的な関わりがどのくらい豊富であるかが、とても重要であることから目をそらせてはいけない。(続く)