自分と社会を見つめる科学 その20

 40歳代は不惑どころか危機の年代だと誰かが言っていたが、前回のブログで紹介した一流シェフのように、それまで自分の屋台骨のように信じてきたことを疑わなければならないことは大変なことだ。「ある意味捨てる」と、そのイノベーションを表現してしまったが、正しくは「異質な二つのことを統合する」ということだろう。

 シェフは、一流の料理の腕を否定したのではなく、その料理を守り仲間と共有するために、若者の意識を理解しようとしたのだ。本当に料理の道を愛するからこそ勇気を振り絞り、バイトに行って慣れないことをするようなあり得ないことができたのだ。

 母親にとっては、子供との親密さを育み愛を培ってきた生活が何より大切なものだ。しかし、壮年期になると、子どもたちが青年期に入り、自分のあり方を求め外の世界と関わろうとする。親子は「親離れ、子離れ」を求められる。『「愛着」と「分離」その相反することを「統合」する』それが壮年期の危機を脱却するイノベーションなのだ。上のシェフと同じだ。本当に愛しているからこそ、まるで正反対のことを受け入れ、より良い形で結論を導き出すことができるのだ。子どもを本当に愛するからこそ、その子の自立と活躍を見守る立場に自身を置き、これまでとは違う大きな喜びを感じることができるのだ。

 その悩みを見つめるために、自身の価値観を言語化することが必要だ。一人で考えていても闇に入っていくので、同じような立場の人(例えばママ友)と話したり、異なる立場の人(信頼できる年長の人)に聞いてもらったりと、言葉にすることで異質なものの統合につなげていきたい。職場の仲間、家族とのつながりを大事にしながら、自分自身を探し求め、相反する状況も受け止め、それを乗り越える新たなアイデンティティーを確立していってほしい。(続く)