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熟成するシニア世代 その15

 前回は、私の人生における合唱指導をアイデンティティとして話題にした。キネマの神様の例もそうだが、何か仕事で人に誇るものがあるということになってしまうと、俺はそんなものないからダメだと言われそうだ。どちらの例も自分の趣味や好きなことから始まっている。今は人生100年時代と言われるが、その中で大事な言葉が「マルチステージ」の生き方だ。これまでの、教育を受け、会社勤めをし、引退するという一斉行進のような3ステージの人生ではなく、多くの人が転身を重ね、複数のキャリアを経験する時代が来るというのだ。

 その詳しい説明はここでは避けるが、会社勤めの他に、副業やNPOの業務にあたったり、趣味だってお楽しみだけでなく自分発見につながったり、もしかしたら独立起業してあたらしい世界に船出したりなど、様々なステージが想定される時代になってきているというのだ。

 もう自分は会社勤めを40年以上して退職したから関係ないねという人もいると思うが、まだ長い人生、いつでもスタート地点はある。たまたま今日夕飯を食べながら地域のニュースを見ていたら、松代のある高齢女性が紙芝居づくりに熱心に取り組んでいるというのを扱っていた。どこかの絵本を写したようなものではなく、地域の歴史や人物の生涯を題材にしたもので、研究しないとできないものが多く驚いた。本棚にそんな資料本がたくさん並んでいてすごいと思った。ニュースによると、特にこの人は絵を仕事にしてきたというような経歴の持ち主ではなく、以前母の介護をしているとき、なかなか話しかけてもあまり反応してくれない母が、絵を描いて話したら喜んでくれたというのだ。それから紙芝居のようなものを大事にして介護にあたったらしい。なんでも紙芝居を学び始めたのは65歳からだとのこと。

 色々な分野の経験や仕事一筋は大事だが、本当に一流になろうとする人は、流れに乗ってなんとなくやっている人ではないと思う。人生100年時代の生き方を説く「ライフシフト」では、余暇時間を利用して「レクレーション(娯楽)」ではなくて、「リ・クリエーション(再創造)」が大事だという。紙芝居一つとっても実行する人によっては、再創造の気持ちで新しいことに取り組み、社会に発信し自分の高まりを感じ、働くことの心地よさを味わうことができるのだ。そしてそれがニュースにも取り上げられるように、シニア世代の生き方に関心が高い時代なのだ。(続く)