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熟成するシニア世代 その13

「生涯現役」のテーマでブログを進めている。高齢者の学びを「つながり」の側面から考えたが、いよいよ本題である「仕事」や「趣味」に入っていこう。

「仕事・働くこと」がどんな形態、有償無償に関わらず、人生の大きな、いやほとんどの部分を占めているかもしれない。

 小説「キネマの神様」(原作)では、主人公のゴウは、営業の仕事の合間に、というか仕事以上の熱心さで映画を大事にする人生だった。それが70代終わりになって、映画評論を発信する仕事に関わることで、映画と共にあった自分の存在の中心(アイデンティティー)を知り、他の多くの人から期待されているという事実に触れ心躍らせる。さらに、マニュアルとは違うけれど、自分らしい感じ方を自分の内面をさらけ出す言葉で伝えることで、最も良い形で自身の姿を表現し、国境と越えはるかにレベルの高い人とつながる喜びを知る。その上、単に好きなことの発信に終わらず、映画産業の課題を社会に訴え、多くの人の賛同を受け、社会全体に対しても利益をもたらしていくという事実に人生の新しい扉を開ける。そんなゴウらしく「働くこと」で、家族・友人とともに「心地よさ」を味わう。それこそが何ものにもかえられない大事な喜びだ。

 ゴウの姿を通してまとめた「働くこと」の意味は、牧野篤著「シニア世代の学びと社会」を参考にして書いた。その元になっている資料がある。(K•Bホイト編著「キャリア教育ー歴史と未来」)ホイトは「働くこと」の概念理解として8つの項目を挙げている。難しくなるからここでの引用は避けよう。

 概略を一部分紹介すると、上に書いたように「働くことが自分だけのためだけでなく、他の誰かから望まれている」「人は働くことを通して、自他に対して、自分を最もよく表現できる」「働くことをめぐる価値観は、人それぞれ自分に最も相応しいものとして内面化する」「働くことに意義を持たせるためには、自分自身に対しても、社会全体に対しても利益をもたらせているということを理解できること」「働くことから満足を得るには、結果として得られる感覚を心地よいと感じる必要がある」といった内容である。

 私自身も音楽教員として、人から求められるようになっていたか、自分らしい姿で発信できていたか、社会の利益につながっていたか、その人生が、いや今も「心地よい」と感じられるか、振り返ろう。(続く)