高齢者にとって避けて通れないこと、それは「喪失の事実」だ。男・女としての能力だけでなく様々な体の生理機能低下や、「お疲れ様」と言われほっとするが長年人生をかけてきたものを手放す退職。親元を離れていく子どもたち。共に過ごした夫婦・親、仲間との離別・死別。そのようにして喪失の日々を重ねる中で「人生の有限性の自覚」がより現実的なものとなっていく。だからこそ高齢者は「つながり」を強く求めていくのだろう。そのニーズに応える社会的取り組みとしてシニア世代の学びの提供を考えていかなくてはいけない。
その「つながり」をいくつかの側面から捉えた研究がある。それによると、①過去とのつながり ②未来とのつながり ③悠久的なものとのつながり ④社会とのつながり ⑤他者とのつながり ⑥異世代(次世代)とのつながり という側面が考えられる。
(堀薫夫「高齢者の学習ニーズに関する調査研究」)
またいつかゆっくり発信していきたいが、私が市に働きかけ、芸術館附属のジュニア合唱団ができたのは、⑥の次世代育成であるし、②未来の文化創造への取り組みであったと言える。その発足に至る大きな実績となったのは、ウィーン楽友協会合唱団と児童合唱団のコラボした演奏会で、私の人生の大事な①過去とのつながりである。
昨日、高校時代の合唱班仲間から電話があり結構話し込んだ。彼は、レベルの高い合唱団の活動についてとても関心を持っていて、地域の文化レベル向上に強い熱意を持っている議論だった。その中で、彼は私のやっている男声合唱団は「人数ばかり多くてあれではレベルの高い演奏はできない」と厳しい言葉。私は、「我が合唱団は、指導者レベルの人もいれば、カラオケ以外歌った経験のなかった人もいる。それをまとめる力があるから全国的に見ても稀な大合唱団になったのだ」と主張。その議論を振り返ると、彼は③悠久的なものとのつながりを第一に見ていて、私は、④や⑤の社会とのつながり、他者とのつながりといった視点が強いのだと思った。シニア世代の学びと社会についての議論がこんな身近な電話一本にもあることが面白いと思った。
人は、モノを所有することで満たされるのではなく、自分の存在そのものが、自分と他者によって承認され、受け入れられることで自分が満たされる。この存在欲求そのものを見つめることが「生涯現役」についてとても重要なのだろう。(続く)