「能動的アクター」とても好きな表現だ。私もコーラスをやっているからわかる。歌の世界で誰もが主役だ。自分の描いた世界で、自分の思いを込めて歌うのは楽しい。自分が退職してよかったことは、年間計画から日々の予定まで自分の選択に任されることだ。もちろん、収入や家族の生活など保障できるかと問われれば絶対大丈夫とは言えない。そこに不安を感じている人もいるだろう。
そんな熟成するシニアについて考えていたら、小説「キネマの神様」に出会った。iPhoneでちょっとした合間に出先でも読めるので、電子書籍本を時々購入している。特に理由もなく並んでいたリストから選択したのだが、読み始めたら面白くて、仕事を後回しにして読んでしまった。今日読み終えて、改めて「神様ありがとう」と言いたくなった。私がブログで話題にしている「自己中心性」や「能動的アクター」、シニアがどう生きるべきかの答えが書かれていたのだ。
主人公の「ゴウ」は79歳、麻雀や競馬など賭け事に持ち金全て使い果たすどころか、友人に借金までしてしまう困った存在。その娘「山川歩」は、都心に映画を中心とした大きな文化施設開発を任されたやり手ウーマンだったが、身に覚えのないことが元で、立場を悪くして自ら退職。この二人の親子が、共に大好きだった映画を通じて新しい生き方を求めていく話だ。
娘が就職した映画雑誌会社のつながりで、映画大好きの人生だった父親がブログを書くことになる。映画を愛し、名画の魅力を独特の解釈で発信する父のブログが大評判になり、ついには、アメリカでも発信されるようになる。そして、「ローズ・バッド」と名乗るアメリカの映画評論家とのバトル的なブログ交換が、700万人もの読者を感動させるようになる。
これ以上は自分で読んでください。話題にしたいのは、「ゴウ」が、生きる目的を失い、賭け事や、ただ映画を見ることで日々を過ごしていた人生から、自分のアイデンティティを見つけ、家族や仲間とつながり、大勢の人を動かしたことだ。人は誰しも自分の好きなこと、始めると時間を忘れるようなことを持っていたいものだ。流れに任される生き方ではなく、命の次に大切な「選択する自由」を持っていることをうれしいと思える日々を過ごしていきたいものだ。映画が終わって、ホールが明るくなってその余韻に浸っている時、自分にもあんな人生が味わえたらいいなと、自分ごととして心に仕舞い込みたいものだ。(続く)