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老いの研究 その15

 脳の働きについて考えてきたが、老いの研究としてやはり気になるのは脳の疾患だ。私の父も脳出血で倒れて運ばれ24時間と持たなかった。寒い日に出かけようとしてタイヤを交換していたらしい。脳卒中による死亡者は毎年10万人を超え、寝たきりや要介護の原因となる疾患の第1位だ。

 神経細胞(ニューロン)が1000億も集まり、複雑なネットワークで人を管理している。その血管の長さは、数百キロメートルにおよぶという。脳の重量は、体重の2〜3%ほどしかないが、それにもかかわらず、心臓が一回の拍動で送り出す血液のうち約15%は脳へ送られて、体のエネルギー源となるグルコースの供給量の約20%を消費している。(参考:別冊ニュートン「人体完全ガイド」)

 とりあえずここで扱いたいことは、「大きな発作の何年も前に予兆があらわれること」があるということだ。血管の壁にできた小さな血の塊(血栓)が剥がれて脳内の動脈に流れ、そこで詰まることで、その先に血液が流れにくくなり、その脳の一部分が酸欠状態になり、脳が働かなくなるのだ。それを「一過性脳虚血発作 “T I A”」という。

 問題は、小さな血栓は自然に溶けるため、T I Aの症状はほんの数分〜数時間で消える。そしてそのまま放っておくと、やがて本格的な脳梗塞の発作につながる危険性がとても高いということだ。

 具体的にT I Aの発作でどのような症状が出るかというと、その血栓のできた場所によっていろいろある。一つ目は「半盲」片目で見ても両目で見ても視野が半分欠けてしまうとか、「複視」突然片方の目が見えなくなったりかすんで見えにくくなるという視覚に関するもの。「めまいやふらつき」「激しい頭痛」「ろれつが回らない」「言葉が出てこない」「相手の話していることが理解できない」「体の片側に麻痺が出る」などがある。

 おかしいと思った時のチェックは、“FAST”というので役立てて欲しい。Fは「Faceフェイス」ニコッと笑おうとしても、片側の頬が下がってしまう。Aは「Armアーム」手のひらを上に向けだ状態で両腕を挙げようとしても片方の手だけできない。Sは「Speechスピーチ」ろれつが回らなかったり言葉が思うように出てこない。これらにいずれかに異常が見られたときは、発症した時間をチェックした上で、T「Timeタイム」一刻も早く救急車を呼ぼうということだ。人はおかしいと思っても、じきによくなったり軽い場合は、疲れているのかななどと、あまり深刻に考えずに済ませたいものだ。お互い気をつけよう。(続く)