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老いの研究 その14

 脳の活性化について考えてきた。最近は認知症予防のドリルもいろいろ出ている。しかし、「ドリルやパズルは知力低下に効果なし」という説もある。認知症そのものは脳の仕組みの問題でもあるので後日触れるが、日々の過ごし方については私なりにまとめてみたい。

 様々な刺激(情報)がそれぞれの感覚機関から脳に伝えられ、海馬とその関係部署が整理・統合し、重要なものは記憶として保管される。(エピソード記憶)ただ自転車乗りやバッティングのような体を動かす作業は、“手続き記憶”といって海馬を通さず担当の部分で直接記憶される。ドリルも単に作業的なものはそれに似た動きになるのではないか。介護施設などで認知症予防でしているものは、日々の生活につながる問題だったり、知力を総動員する穴埋めだったり、さらに職員と会話しながら進めたり、単なる作業とは言えないものが使われている。

 イギリスの「ドリルやパズルは知力低下に効果なし」とする研究でも、「日頃から知的生活に心掛けている人は、老齢になっても知力低下しにくい」とはされているようだ。

 スマートエイジングで、賢く年を重ねる7つの秘訣に「脳トレ」があり、その例として「音読」や「手書き」が紹介されている。それは、単にテレビを見ているのとは違って、文章を目で追い、文字や言葉を判断し、声に出し、その音色やイントネーションを感じ取り、他の人にどのように伝わるだろうかなど、いろいろな感覚や脳の部分が連携して働くからでしょう。

 私は、コーラスを指導していますが、音読以上にこれは脳トレになると思います。言葉・旋律を理解し、体の必要な部分を働かせて声にする。そして、それを音として認識し評価する。さらに他の人、指揮者の表情など本当にたくさんの情報を同時に処理している。また、楽譜から目を離すにはその曲を素早く記憶し、しかも次々に引き出していかないといけない。

 同じように料理も良いと思う。味・匂い・見た目、いろいろな感覚を働かせて手を複雑に動かす。さらに、時間を見て手順も総合的に判断しながらやっている。食してくれる人の気持ちも判断しなくてはいけない。

 知的な生活を維持していくことは、このように日常の過ごし方にあると思う。ただし、頭を働かせずただ温めるだけの料理もある。深く考えずにみんなに合わせてなんとなく歌っていることもある。そのちょっと違う部分、似て非なる部分がとても重要だと思う。ドリルも同じ。なんとなくやっているのでなく、面白いと感じ、工夫したり、よりレベル上を狙うから効果がある。作業的になんとなくやっているのでは当然効果は少ないように思う。(続く)