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老いの研究 その12

 神経細胞(ニューロン)は情報のやりとりをするために軸索(木の根状に伸びた腕のよう)を伸ばしている。その情報をやり取りする部分をシナプス(神経細胞のつなぎ目)と呼んでいる。このシナプス同士は繋がっているわけではなく、隙間があって、そこに神経伝達物質を放出することで情報のやりとりをしている。高度な脳をよく人間は手に入れたものだと思う。

 シナプスの情報を受け取る側の樹状突起からプクッと風船状に膨らんだ“出っ張り”をスパインと呼ぶ。これが他の細胞から伸びてきた軸索とシナプスを形成して信号のやりとりをする。最近の研究で、このスパインは学習による刺激がなくても大きさが自然に膨らんだり消滅したり変動しているのだそうだ。新しい記憶(小さなスパイン)は、変動によってすぐに消滅してしまう可能性があるのだ。

 知識を身につけるには繰り返し学習してスパインを大きくする必要があるのだという。このところ紹介した記憶術と繋がってくる。私たちの記憶は、生まれては消えていく脳の小さな樹状突起の出っ張りに刻まれていく。その記憶(知)も使わなければ、脳の空き容量を確保するために消滅していくのだ。

 スマートエイジングで「脳トレ」のことに触れた。“トレーニング”という表現のせいか、ドリルのように繰り返し訓練的にやればいいと思われやすい。しかしそれで働くのは脳のほんの一部分だけで、脳全体のネットワークの活性化することにはならないらしい。その辺りもさらに追究していこう。(続く) 参考図書:別冊ニュートン「脳とは何か」