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これが自分 その10

 研究の峰であった附属から長野市の山の学校へ赴任して、今までやったことは特別のことだったと思いたくなかった。本当に子どもたちを伸ばせる理論と実践ならどこでもできるはず。その一つとしてこだわったのは音楽集会の改革だった。普通音楽集会は、体育館に全校で集まって、音楽の先生の指導のもと進められる。一方的に教師が語り、担任の見守る中、全員が声を揃えて一生懸命歌うことが求められる。私は、子どもたちの自ら伸びる力を信じ、児童が進める音楽集会を目指した。

 担当のクラスが音楽集会を進行し、子どもたちが感想や表現の願いを発表したり、皆の前で歌ったりするのだ。私のクラスが受け持った時、音楽の授業でやっているように、全校でも自分の声をかけた人と二人組で歌ってみようということになった。その時の5年生のM子の感想が残っている。(以下が学習カードの全文)

「音楽集会をやりました。今まで二人組ではやらなかったけど、私たちがやっている授業からそのやり方をだしてやってみました。最初、初めてだったので、一人余ると困るので一年生のところに行きました。そしてK君とやりました。2回目は、その場所に立っていたら、一年生から寄ってきました。S子さんと2年生のY子さんとやりました。S子さんとY子さんとやった時に、途中から歌が楽しくなりました。そして『音楽ってこんなに楽しかったんだ。』と思いました。今までは音楽集会はいやでした。S子さんは歌声がとてもきれいでした。1年生のH先生に言ったら、『一年生で一番きれいだ』と言っていました。私は、S子さんとY子さんの間にいたので、二人の声がわかりました。二人の声がとてもあっていました。」

 M子さんは、一年生が寂しいといけないと思って声をかけ一緒に歌ってあげる。しかしその後、二人の低学年の子に声をかけられ一緒に歌い、その無心になって歌う子の美しい声に心を強く動かされる。「音楽ってこんなに楽しかったんだ」とその子たちとの活動から逆に学ばされる。私はこのM子の言葉から、先生が指導するとか、高学年の子が下の学年の子を指導するといった一方通行ではなく、互いに学び合う中で、学年を超えて良さを共有し、互いに学び合うという附属で大事にしてきたことがちゃんと全校66人の山の学校でもできることをとてもうれしく思った。

 教師が上から目線で指導する技を磨き、点数をつけることに専念するのでない世界を長野市の先生たちに知ってほしくて、この音楽集会の事例を市の研究冊子「長野市の教育 第10集」に載せてある。