「明確な目標を持つ」の具体的な例としてまずは「歌と健康セミナー」からだ。勤めていた時からの継続的な事業だが、独立したことで、より自分にとってこの講師を担当する意味というか価値が重要であるようになった。この教育心理研究室を設立する上でも、この講座を企画したことが大きなきっかけになっている。
市長が、私が所属する男声合唱団ZEN(ゼン)が高齢者男性の多い組織でありながら、元気でレベルの高い活動をしていることや、地域に対する貢献度の高いことに心を動かし、文化関係の担当課に、あの合唱団のような高齢者の音楽を活発に行えるような事業はできないかと指示があったらしい。その課から私のいた家庭・地域学びの課に相談があり、いろいろとアドバイスはしたが、結果的に我が課で実施することになり、2017年に市教委で主催する「コーラスフェス」がスタートした。
これは、市内にある小さな合唱団で、自分たちでは演奏会が開けないような人たちが集まって発表会をし、学び合う場として設立された。そして発表会のまとめとして私が全体指導をすることになった。合唱団のレベルも様々でそれなりに専門的な指導者がいる合唱団相手に音楽的な指導をするより、社会教育的立場から、その活動の目指すものや参加者にとっての価値、運営の留意点などを話す方が良いと考えた。特に、この事業を起こすきっかけとなった高齢者問題について、「元気に活動できる」「歳を重ねるのが楽しくなる」といったことについて触れることにした。
そこで、人生100年化時代にいかに賢く年を重ねるかを研究した「スマートエイジング」を中心に取り上げ、その「7つの秘訣」と合唱がとても関連が強く効果があることを話した。これは、時代的に重い話題であったこともあり、新聞に写真入りで大きく取り上げられ、市長にも報告された。よその課が丸投げしてきたことを大きな成果に結びつけることができた。やらされる仕事ではなく、その事業の持つ意味を考え、大きな視点から今の時代に求められるものが何かを見つめ、目指すものを明確にすることが重要であると改めて気付かされた。(続く)